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レポート◉岸本 康
動画用三脚はジワっと動き出してジワっと止まる繊細な動きができることが重要。その動きに対してはベテランほどうるさい。そして三脚の持ち運びは軽いに越したことはないのだが、それを実現している製品がなかなかないというのも映像制作業界では共通認識だ。そこに一石を投じたのが今回リーベックから新しく発売されたNXシリーズだ。ミラーレスのような軽いカメラに対してもカウンターバランスが合い、初動のじわっとした感じを斬新な設計と職人技で作り出した。
NXシリーズは軽量のカメラ(0.5〜2.5kg程度)用のNX-100と、ハンドヘルドやショルダーカメラ(2.5〜10kg程度)に対応したNX-300の2種類のヘッドと、それぞれにミッドスプレッダーの世界最軽量カーボン脚を組み合わせたものと、グランドスプレッダー脚を組み合わせたタイプの4種類がリリースされた。ヘッド単体やスプレッダーも共通パーツとして付け替えが可能で、後日発売が予定されている。 標準価格はNX-100が10万円、NX-300が15万円とカーボン脚を標準にしている設定としては価格も抑えたものになっている。
▲NX-100、10万円
▲NX-300、15万円
やはり心臓部のヘッドから紹介したい。私の場合、専門に撮影するのが美術品や芸術に関するものが多く、三脚の動きが画面を構成する重要な要素になる。例えば掛け軸の絵をチルトアップする時にその絵の内容に合ったスピードで、その繊細さや雰囲気を伝えたい。最近の撮影ではデジイチに様々なレンズを付け替えたり、カメラを載せ換えたり様々な重量に対応しなければならないこともあって、なかなか1本の三脚で兼ねられるものは少ないが、まずNXのヘッドは様々な重さのカメラのカウンターバランスに対応するということがコンセプトの柱にある。NX-100は約0.5〜2.5kgのカメラに対応してカウンターバランスは5段階調節が可能だ。バランス範囲は正比例ではないが2000gの荷重範囲を5で割るとざっくりと1段階400g。無段階にするとどうしてもヘッドの重量が増えることから、この段階調節になったそうだが、稼働全範囲の完全バランスを求めなければ様々なカメラに対応する。
試しにまずGH5に標準的なレンズの12-40mmを付けて(約1250g )パン・チルトしてみた。カウンターバランス1とドラグ3でしっくりと動き止めることができた。ドラグは重くしたほうがバックラッシュ(反動による押し戻し)が少ない。
次にリグを付けたGH5Sに12-100mmを付けて(約1750g )載せてみた。こちらはカウンターバランス2と、ドラグ3で安定した。
パンもチルトもその粘性を調整するドラグは3段階。これは好みもあるが軽いカメラでは軽くしたほうが初動の動きを操作しやすいと思っていたが、金属積層ユニットと動き自体が滑らかなので、ドラグを重くしてもガクッと動くことなく操作できて、むしろ止める時にぴたっと止まるので、ドラグは強めのほうが良かった。
大型カメラにも対応したNX-300は2.5〜10kgの約7500gを5段階で調整するため間隔はざっくりと1.5kg。リグを組んだFS5にMKレンズ18-55mm(約4200g )を乗せると、2ではバランスが足りず、3では両端で少し戻される結果となり、そのままでは良いバランスは得られなかったが、ここはマイクやモニターなどで積載重量で調整すれば無段階でない部分をアクセサリーで補えると思う。こちらもドラグは3でバランスの合っている範囲ではピタッと止る動きができた。またパン側の動きと合わせた斜め方向の動きもスムーズで、舞台やスポーツなど大きく動かすような撮影に良いと思う。
ヘッドは75mmのお椀仕様だが、底が平面になっているので、センターポール三脚や、スライダーと合わせて使える仕様になっている。
また実機を見ると外装の半分くらいが樹脂製であることに気がつく。コストダウンのためかと思われてしまうかも知れないが、ここに樹脂が使われているのは軽量化のためで、内部に金属積層ユニットのドラグシステムを使うことによって重量が増える部分をここで解消している。ドラグの機構は軽量三脚の場合、樹脂製がほとんどで、ここが金属になることで重量が増える。NXシリーズのヘッドの外装が樹脂なのに、重さはそれほど軽くなっていないのにはここに理由がある。
金属の積層ユニットは樹脂製とどう違うか。これによってじわっと動いて、じわっと止めることが実現する。三脚の操作で一番難しいのは、パンやチルトの範囲内をどういう速度配分で動かすかだ。その中でも難しいのが動き始め。ここがぎこちないと画面が台無しになるので、下手なパンニングだと編集でディゾルブを使ったり、最初の部分にスローをかけたりしてごまかすことになる。静止からの動き出しの美しさは動画表現の一つの技術だとも思うが、そこに照準を合わせてきた製品になる。これを実現するのは製品設計と製造。熟練した職人が組み立てて調整して初めて実現できるもので、今回外装にも日本の伝統文様を施し、Made in Japanへのこだわりが感じられる。
今回注目したのが、パン棒の取り付け位置だ。最近の三脚ヘッドではパン棒の取り付け位置は、中央からシフトした上側の手前の位置にネジがあるが、これはヘッド中心からの距離によって支点が離れるために初動に力がかかりやすいようになっている。しかしよく考えると三脚はヘッドの中心を回転運動するわけで、シフトしていることによって力は入りやすいが、繊細な動きや、パンの途中に一定の運動力を与えるには不利ではないかと私は常々思っていた。時に小型のカメラを乗せた雲台はパン棒の先を持つよりも付け根のほうを保持して、ヘッドを回転させるような気持ちで行うとスムーズに動かすことができる。チルトはカメラの上げ下げではなく、回転運動だ。今回ヘッドの上部の部品が樹脂になったためにパン棒の接合が中央になったのかも知れないが、意外とこれは三脚にとって大きなプラスポイントかも知れない。
NXシリーズはカーボン脚の組み合わせのみの発売。ミッドスプレッダータイプはなんと世界最軽量を実現している。確かに最初に見た時、デモ機だから2段の脚が来たのかと思ったほど軽い。しかし現実には3段で169cmの高さになる。ヘッドを外して脚だけを持ってみたら信じられないくらい軽く、なんと小指だけで持ち上げられる。全ての部品を見直して設計したそうだ。確かに小型のクランプやフットのパッドの形状まで小型軽量化されている。またこの三脚は軽いだけでなく、上下方向の調整がスムーズだ。現場であと5cm上げたいとか下げたいとか、その動作の回数が増えると大変だが、下側の1本パイプの脚を伸ばしておいて、上側の2本パイプの方を上げ下げの調整に使うと、クランプを緩めた状態でヘッドを上下させるだけで脚がすっと伸び縮みするという理想の動きを実現している。
デジイチで動画を始めた人にとって、三脚のカウンターバランス自体があまり知られていないかも知れないし、三脚の他にもジンバルやスライダー等の選択がある今日、三脚の人間的動きの繊細さが、どこまで要求されるかは被写体次第なのだが、あえてそこに足を踏み込みたく思ったメーカーの探究心と心意気が感じられる新製品、ぜひ実機にカメラを載せて体感されることをお薦めする。
NX-100/300共通スペック
●質量:3.8kg(グランドスプレッダータイプは4.1kg)●高さ:80〜169cm(グランドスプレッダータイプは54〜169cm)●カウンターバランス:0±5段階 ●パンドラグ:0+3段階 ●ティルトドラグ::0+3段階 ●ドラグ機構:金属積層ユニット ●使用可能温度:-40℃+60℃ ●ティルト角度:+90°/-70° ●ボール径:75mm/フラットベース ●運搬時長さ:84.5cm ●三脚段数:3段 ●ヘッド材質:メインフレーム=金属、外装:樹脂 ●パイプ材質:カーボン
NX-100、NX-300ともにミッドスプレッダータイプ、グランドスプレッダータイプが用意される。
▲NX-100にGH5と12-100mmを載せた状態。カウンターバランス2、ドラグ3で安定した。
▲NX-300にFS5とMKズーム18-55mmを載せた。カウンターは2と3の間なので、アクセサリーなどで積載重量を調整すればよい。
●VIDEOSALON 2020年12月号より転載