この機会に初めての、または新しい完全ワイヤレスイヤホンを手に入れてみたいと考えているかたに向け、スマホメーカーの完全ワイヤレスイヤホンを選ぶときに気になる疑問をひも解いていく本連載。第2回目の今回はBluetoothワイヤレスイヤホンの「ハンズフリー通話機能」にスポットを当てたいと思います。
イヤホンはじめて物語 【第1回】【第2回】【第3回】 |
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2020年は自宅にリモートワークができる環境を急造したかたも多いのではないでしょうか。ビデオカンファレンスに欠かせないアイテムとして、内蔵マイクでハンズフリー通話ができるBluetoothワイヤレスイヤホン・ヘッドホンもよく売れたと聞きます。
今年(2021年)はその勢いも一段落したように思っていたところ、年初から流行している音声SNSサービスの「Clubhouse」でもまた、音のいいマイクを使ってクリアな声を届けたいという理由から、ハンズフリー通話機能の優秀なイヤホン / ヘッドホンが再び注目されています。
有線タイプのイヤホン・ヘッドホンにもハンズフリー通話ができるマイク内蔵の製品が数多くありますが、Bluetooth対応のワイヤレス機器の良いところは、通話中もスマホをデスクなどに置いたまま自由に移動ができてしまうことです。
ハンズフリー通話機能の有無を基準にすると、Bluetoothイヤホン・ヘッドホンは以下の3種類に大別されます。
筆者が知る限り、Bluetoothワイヤレスタイプの製品で「音楽再生のみ」に対応する製品は今ではもう見つけることが難しいぐらい、ハンズフリー通話に対応するものが一般的です。一方、有線タイプのイヤホンには「マイク・リモコン非搭載」のものが数多くあり、ここも購入時に気を付けたいポイントです。
片耳スタイルのBluetoothヘッドセットにカテゴリー分けされる製品については「ハンズフリー通話のみ」に対応する製品もあります。Bluetoothワイヤレスイヤホン・ヘッドホンを音楽再生にも使いたい場合は、製品の仕様一覧に並ぶ「対応プロファイル」の項目を確認しましょう。
ハンズフリー通話機能のために必要なプロファイルは、「HFP(Hands-Free Profile)」「HSP(Headset Profile)」のほかに、「A2DP(Advanced Audio Distribution Profile)」「AVRCP(Audio/Video Remote Control Profile)」という各プロファイルをすべてサポートする製品を選べば、音楽再生とハンズフリー通話の両方に利用できます。
音楽再生・ハンズフリー通話用のBluetoothプロファイル | |
HFP(Hands-Free Profile) | 電話の発着信、通話などをハンズフリーで操作する |
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HSP(Headset Profile) | ヘッドセットによる通話をサポートする |
A2DP(Advanced Audio Distribution Profile) | 高品質にオーディオを再生する |
AVRCP(Audio/Video Remote Control Profile) | オーディオやビデオなどAV機器をコントロールする |
ワイヤレスイヤホン・ヘッドホンの通話品質については、通話する相手にも評価してもらわなければならないため、製品を購入する前に店頭のデモ機等で体験することが困難なポイントです。
しかし、欲しい製品がハンズフリー通話の品質にもこだわっていることを知るための手がかりもあります。
米クアルコムはBluetoothオーディオ機器によるハンズフリー通話品質を向上するため、独自にQualcomm cVc(Clear Voice Capture)と名付けた通話環境周辺のノイズを減衰させて、話者の声をクリアに届けるための技術を提供しています。
クアルコムのオーディオ向けSoC(システムICチップ)を搭載するワイヤレスイヤホン・ヘッドホンの中にはこの技術を採用するものが比較的多くあり、製品のパッケージやWebサイトに特徴として記載もされています。
イヤホンが内蔵するマイクの種類、筐体の構造と関わるマイクの配置などもハンズフリー通話の品質に影響します。筆者が試してきた限りではマイクロフォンや放送用機器、電話機などを手がけるメーカーのものは、やはりこの辺りのものづくりのノウハウに長けているためか、通話品質の安定した製品に巡り会える確率も高いように思います。
ワイヤレスイヤホン・ヘッドホンでは、ハンズフリー通話の体感品質を向上するための技術も、進化と普及のスピードが加速しています。
例えば通話環境の周囲にあるノイズを電気的な処理によって消す「アクティブ・ノイズキャンセリング」は、ソニーの「WF-1000XM3」やアップルの「AirPods Pro」など人気モデルにより脚光を浴びている機能です。
また「外音取り込み」や「ヒアスルー」などと呼ばれる、“イヤホン内蔵マイクで周囲の音を取り込む機能”があると、ハンズフリー通話の最中も周囲にいる人からの呼びかけに応答できて便利です。
最近ではアクティブ・ノイズキャンセリングをオンにしている間に、ユーザーが会話を始めると自動的に外音取り込みに切り替わる機能を実現した製品も現れました。ソニーのワイヤレスヘッドホン「WH-1000XM4」が搭載する「スピーク・トゥ・チャット」や、サムスンの左右独立型ワイヤレスイヤホン「Galaxy Buds Pro」が搭載する「インテリジェントANC」がその先駆けです。
どちらも基本は音楽を聴いている最中でもシームレスにハンズフリー通話へ移行できることを特徴にうたっていますが、応用すればビデオカンファレンス中に発言不要な間はイヤホン・ヘッドホンが自動的にマイクをミュートにする機能も実現できそうです。
音声コミュニケーションを快適にするアイテムとして、ワイヤレスイヤホン・ヘッドホンにはまだたくさん進化する余地が残されていると思います。
やまもとあつしジャーナリスト兼ライター。オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。独ベルリンで開催されるエレクトロニクスショー「IFA」を毎年取材してきたことから、特に欧州のスマート家電やIoT関連の最新事情に精通。オーディオ・ビジュアル分野にも造詣が深く、ハイレゾから音楽配信、4KやVODまで幅広くカバー。堪能な英語と仏語を生かし、国内から海外までイベントの取材、開発者へのインタビューを数多くこなす。